2009年1月12日月曜日

サンシュルピス教会のドラクロワ

どうして正月というのは見るテレビが全くないのだろう。元旦、適当にチャンネルをまわしていると「美の巨人たち」という番組がやっていた。小林薫がフランスを旅して歴代のアーティスト達が作った礼拝堂を巡るというものなのだが、これが思いの他、面白かった。ごちゃごちゃした番組ばっかりの中で、静謐な雰囲気が異彩を放っていてとってもいい。その回は、マティスが白いタイルに輪郭だけのマリアを描いた愛らしい南仏の礼拝堂と、コルビジェが作った設計した光あふれるロンシャン礼拝堂、そしてドラクロワの大壁画があるパリ最古の教会・サンシュルピスが特集されていた。



サンシュルピス教会にそんな有名な絵があったのかとちょっとびっくりした。そこは私の家から歩いて5分ほどの場所にあるのが、いつも修復中という印象があって足を踏み入れたことはなかった。高い塔が二本そびえる巨大な教会で、結構な迫力なのだがノートルダムなどに比べるとどうもマイナーなようで、観光客もめっきり少ない。

そんなサンシュルピスを一躍有名にしたのは、「ダビンチ・コード」だ。物語の始めのほうに、重要な秘密が隠されている教会として登場し、老シスターの殺戮の現場になったのがここだ。一時はアメリカ人がダビンチコード片手にうろういていたものだ。

さて、今日は日曜日。時間もあるので、さっそくこのドラクロワの大壁画を見に行くことにした。氷点下の凍てつく気温なので、五分以上歩くところには行きたくない、という気持もあった。ドラクロワといえば、その劇的な画面構成と色彩表現で知られている。彼の絵の影響力というのはフランスにおいてはすさまじいらしく、ゴッホもルノワールもピカソも、みんな「ドラクロワの影響を受けた」と言っているらしい。彼の絵で最も有名なのは「民衆を導く自由の女神」で、これはルーブル美術館にある。この絵の前はたいてい黒山の人だかりで落ち着いて見られたものではない。そういえば、最近この絵は日本のピンクリボンキャンペーンにも使われていたので、日本で目にした人も多いかもしれない。




私が教会に着いたのは夕方4時くらいだったのだが、ステンドグラスと蝋燭の光だけが頼りの教会の内部はかなり薄暗かった。人も疎らで、じっくり絵を見られそうな雰囲気が嬉しい。目指す壁画、「ヤコブと天使の戦い」は正面玄関を入ってすぐ右手にある。








ところが、あれれ、と思った。絵が影に沈んで全く見えない。そういえば番組でもドラクロワはここの場所の「光の変化」に苦しめられたと言っていたのを思い出した。時間によってはかなり強い光が当たるのだが、残りの時間はかなり薄暗い場所だそうだ。だから、かなり原色のような強くて単純な色彩を組み合わせることで、どんな光にも対応できるようにした、とか言っていた。それにしても冬の夕方には対応できなかったらしい。そりゃそうだ、外だって薄暗いんだもの。




せっかく来たのにちょっと残念だったが、歩いて五分なのでいくらでも機会はある。すみません、また来ますと呟いた。ドラクロワはこの絵を完成させるのに八年の歳月を要したらしい。だから次はぜひ午前中の明るい時間に来よう、と思いつつ教会を出た。外の広場では、凍った噴水にのっかって、子ども達が楽しんでいた。







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