2009年9月4日金曜日

三ツ星レストラン ルドワイヤンにて

三ツ星レストランには一度だけいったことがある。昔から中が良い友人カップルが彼女の40歳の誕生日を祝うためにアメリカからパリにやって来た。誕生日当日、二人は「ルドワイヤン」というコンコルド広場近くにあるレストランに予約をいれていた。二週間ほど居間のソファベッドを占領していたお礼として、ご馳走するので一緒に行こうと誘ってくれた。もちろん、いくいく!と答えたのは言うまでもない。

私は三ツ星レストランとはどんなものなのか、まるで理解していなかった。普段仕事にでかける格好で行こうとしたところ、友人が「言いにくいけど、ほかの服はないのか」と聞いてくる。

「なんで?」

「ちょっとその格好じゃ浮いちゃうかも」

言われるままに、夏用の黒いワンピースを取り出し身につけた。

到着してみると、なるほど、友人は正しかった。それはまるで貴族の館のようだった。黒いタキシードの人々がうやうやしく迎えてくれ、お客さんもイブニングドレスなど今すぐ結婚式に出席できそうな格好なのである。その日私たちは、永遠と続くような想像を絶するほど豪勢な食事を楽しんだ。私は肉も魚もどっちも出てくるコースは初めてだったし、メインとデザートの間に好きなチーズを選べるトレーが出てくるのも知らなかった。チーズを選ぶと、ソムリエが静かに近寄ってきて、それに合うワインを選んでくれる。そしてデザートだけで、三皿ほど続くのだ。すべてのコースを食べ終わったのは深夜十二時をすぎてからで、翌日は三人とも一日中食欲はなくウドンをすすった。

 さて、私の三ツ星体験はこの日ですっかり止まった。私は小銭を手にするとすぐに旅にでかけてしまうので、一度の夕飯に四、五万も払うなぞ無理な相談だった。